大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

水戸地方裁判所 平成元年(わ)526号 判決 1990年7月09日

本店所在地

茨城県土浦市富士崎一丁目一五番一号

法人の名称

株式会社 霞工業

代表者の氏名

(右代表者代表取締役 酒井正敏)

本店所在地

茨城県つくば市西平塚字浦山二一九番地一

法人の名称

株式会社 筑波道路瀝青

代表者の氏名

(右代表者代表取締役 酒井正敏)

本籍

茨城県土浦市大字下高津一五五番地

住居

茨城県土浦市下高津一丁目二二番三四号

会社役員

酒井正敏

昭和七年一一月七日生

右株式会社霞工業及び株式会社筑波道路瀝青並びに酒井正敏に対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官丸山恭並びに弁護人(主任)古屋亀鶴及び同神宮壽雄各出席の上審理して、次のとおり判決する。

主文

被告人株式会社霞工業を罰金一、八〇〇万円に、被告人株式会社筑波道路瀝青を罰金一、〇〇〇万円に、被告人酒井正敏を懲役一年六月にそれぞれ処する。

被告人酒井正敏に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社霞工業(以下「被告会社霞工業という。)は茨城県土浦市富士崎一丁目一五番一号に本店を置き、土木建築及び砕石の販売等を目的とする資本金五、〇〇〇万円の株式会社、被告人株式会社筑波道路瀝青(以下「被告会社筑波道路瀝青」という。)は同県つくば市西平塚字浦山二一九番地一に本店を置き(実質上の本店は被告会社霞工業と同じ)、土木建築資材の製造販売等を目的とする資本金一、〇〇〇万円の株式会社であり、被告人酒井正敏は右被告会社両社の代表取締役としてその業務全般を統括していたものであるが、

第一  被告人酒井正敏は被告会社霞工業の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空・水増しの外注加工費等を計上するなどして所得を秘匿した上、

一  昭和五九年四月一日から昭和六〇年三月三一日までの事業年度における同会社の実際所得金額が一億七、三五四万七、二二五円であつたにもかかわらず、昭和六〇年一〇月三一日、茨城県土浦市城北町四番一五号所在の土浦税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一億三〇〇万一、二二五円でこれに対する法人税額が四、一三二万三、〇〇〇円である旨の虚偽の法人税修正申告書を提出し、同会社の右事業年度における正規の法人税額七、一八五万六、八〇〇円と右申告額との差額三、〇五三万三、八〇〇円を免れ、

二  昭和六〇年四月一日から昭和六一年三月三一日までの事業年度における同会社の実際所得金額が一億一、四七六万三、四〇〇円であつたにもかかわらず、昭和六一年五月三一日、前記土浦税務署において、同税務署長に対し、所得金額が七、八〇四万一、〇八〇円でこれに対する法人税額が三、一四六万四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、同会社の右事業年度における正規の法人税額四、七三四万七、九〇〇円と右申告額との差額一、五八八万七、五〇〇円を免れ、

三  昭和六一年四月一日から昭和六二年三月三一日までの事業年度における同会社の実際所得金額が一億四、一九五万一、六七八円であつたにもかかわらず、昭和六二年六月一日、前記土浦税務署において、同税務署長に対し、所得金額が七、一九一万一、九〇二円でこれに対する法人税額が二、八二六万二、九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、同会社の右事業年度における正規の法人税額五、八五九万三〇〇円と右申告額との差額三、〇三二万七、四〇〇円を免れ、

第二  被告人酒井正敏は被告会社筑波道路瀝青の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空・水増しの材料仕入高等を計上するなどして所得を秘匿した上、

一  昭和五九年四月一日から昭和六〇年三月三一日までの事業年度における同会社の実際所得金額が八、七四七万七、二七七円であつたにもかかわらず、昭和六〇年一〇月三一日、前記土浦税務署において、同税務署長に対し、所得金額が三、八七四万七、六七七円でこれに対する法人税額が一、四六四万六、〇〇〇円である旨の虚偽の法人税修正申告書を提出し、同会社の右事業年度における正規の法人税額三、五七四万六、一〇〇円と右申告額との差額二、一一〇万一〇〇円を免れ、

二  昭和六〇年四月一日から昭和六一年三月三一日までの事業年度における同会社の実際所得金額が、六、〇四六万五九四円であつたにもかかわらず、昭和六一年五月三一日、前記土浦税務署において、同税務署長に対し、所得金額が二、一二三万二、六九六円でこれに対する法人税額が五六五万七、八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、同会社の右事業年度における正規の法人税額二、二六二万四、〇〇〇円と右申告額との差額一、六九六万六、二〇〇円を免れ、

三  昭和六一年四月一日から昭和六二年三月三一日までの事業年度における同会社の実際所得金額が三、二八五万八、四七八円であつたにもかかわらず、昭和六二年六月一日、前記土浦税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一、九五〇万五、七一四円でこれに対する法人税額が五九三万六、四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、同会社の右事業年度における正規の法人税額一、一七一万八、三〇〇円と右申告額との差額五七八万一、九〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全部について

一  第一回公判調書中の各被告会社代表者及び被告人酒井正敏の供述部分

一  被告人酒井正敏の検察官に対する供述調書七通

一  山野邉義明、石川哲郎及び松田喜久雄の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  検察事務官作成の捜査報告書及び電話聴取書

判示冒頭の事実について

一  登記官作成の登記簿謄本三通

判示第一の事実全部について

一  皆川博及び山本巖の検察官に対する各供述調書

一  土浦税務署長黒羽茂作成の証明書(株式会社霞工業に対する調査書についてのもの)

一  太田章作成の「収入調査書」、「材料仕入調査書」、「外注加工費調査書」、「機械等賃借料調査書」、「事業税認定損調査書」及び「その他所得調査書」と題する各書面

一  金山岳作成の「機械等運賃調査書」、「減価償却調査書」、「交際費調査書」及び「交際費の損金不算入額調査書」と題する各書面

判示第一の一、二の各事実について

一  浜田和男及び大橋美喜雄の検察官に対する各供述調書

判示第一の一、三の各事実について

一  末永求也、野竹千歳及び重藤和恵の検察官に対する各供述調書

判示第一の一、三及び第二の二、三の各事実について

一  布屋江佐夫の検察官に対する供述調書

判示第一の一及び第二の一の各事実について

一  小泉準の検察官に対する供述調書

判示第一の二、三及び第二の一、二の各事実について

一  南坂保夫及び塚田迫の検察官に対する各供述調書

判示第一の二、三及び第二の二、三の各事実について

一  内山明博の検察官に対する供述調書

判示第一の二、三の各事実について

一  林富士夫の検察官に対する供述調書

判示第一の三及び第二の一、二の各事実について

一  磯崎勝雄及び山崎勇の検察官に対する各供述調書

判示第一の一の事実について

一  太田実(二通)及び大根田伉の検察官に対する各供述調書

一  太田章作成の脱税額計算書及び修正損益計算書(いずれも昭和六〇年三月期分についてのもの)

判示第一の二の事実について

一  青山美奈子及び飯島敏男の検察官に対する各供述調書

一  太田章作成の脱税額計算書及び修正損益計算書(いずれも昭和六一年三月期分についてのもの)

判示第一の三の事実について

一  斉藤繁夫、飯塚清、荒川和夫、川崎政好(二通)、江幡道士、市原まさ江及び市原敬司の検察官に対する各供述調書

一  太田章作成の脱税額計算書及び修正損益計算書(いずれも昭和六二年三月期分についてのもの)

判示第二の事実全部について

一  土浦税務署長黒羽茂作成の証明書(株式会社筑波道路瀝青に対する調査書についてのもの)

一  永山賢二作成の「商品売上高調査書」、「商品仕入高調査書」、「材料費調査書」、「福利厚生調査書」、「厚生費調査書」、「減価償却調査書」、「接待交際費調査書」、「交際費等の損金不算入調査書」、「事業税認定損調査書」及び「その他所得調査書」と題する各書面

判示第二の一、二の各事実について

一  長田文雄(二通)、渡部登(二通)、西大燈(二通)、辻守男、泉則春(平成元年一〇月一九日付け、同月二〇日付け、同月二二日付けで本文一五丁のもの、同日付けで本文八丁のもの)の検察官に対する各供述調書

判示第二の一の事実について

一  中沢誠、牧島みのる(平成元年一〇月二四日付け)及び泉則春(同月二二日付けで本文二丁のもの)の検察官に対する各供述調書

一  永山賢二作成の脱税額計算書及び修正損益計算書(いずれも昭和六〇年三月期分についてのもの)

判示第二の二の事実について

一  牧島みのる(平成元年八月一日付け)、芹沢卓治、泉則春(同年一〇月二四日付け)及び星忠恵の検察官に対する各供述調書

一  永山賢二作成の脱税額計算書及び修正損益計算書(いずれも昭和六一年三月期分についてのもの)

判示第二の三の事実について

一  杉本幸二の検察官に対する供述調書

一  永山賢二作成の脱税額計算書及び修正損益計算書(いずれも昭和六二年三月期分についてのもの)

(法令の適用)

被告会社霞工業についてはいずれも法人税法一六四条一項、一五九条一項によるところ、情状により同法一五九条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪所定の罰金の合算額の範囲内で被告会社霞工業を罰金一、八〇〇万円に処することとする。

被告会社筑波道路瀝青についてはいずれも法人税法一六四条一項、一五九条一項によるところ、情状により同法一五九条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪所定の罰金の合算額の範囲内で被告会社筑波道路瀝青を罰金一、〇〇〇万円に処することとする。

被告人酒井正敏の判示各所為はいずれも法人税法一五九条一項に該当するところ、各所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第一の一の罪の刑に法定の加重をし、その刑期の範囲内で被告人を懲役一年六月に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、被告人酒井が、各被告会社の代表者として、その業務に関し、それぞれ三事業年度にわたり、被告会社霞工業においては合計七、六七四万八、七〇〇円(ほ脱率約四三・二パーセント)、被告会社筑波道路瀝青においては合計四、三八四万八、二〇〇円(ほ脱率約六二・六パーセント)の法人税を、架空経費の計上や売上除外の方法によりほ脱したものであり、右犯行は、被告人酒井が、自らの株式取引の資金や遊興費、接待費等を捻出するためになした専ら利己的な動機に基づくものであり、その態様も、被告人酒井が地元の関係業界における自己の実力を背景に、取引先の業者に働きかけ、架空の請求書や領収書を発行させる等したものであつて、これら事情に照らせば、その刑事責任は重いものがあるといわなければならない。

しかしながら、他方、各被告会社は、本件犯行にかかる事業年度の法人税につき、それぞれ修正申告の上、本税及びこれに対する延滞税につき全額納付済みであり、重加算税についても、決定通知があり次第納付する用意ができていること、本件の発覚により、国及び地方公共団体から一か月の指名停止処分を受け、これにより相当程度の社会的制裁を受けたものと認めることができること、本件発覚後、新たな税理士が各被告会社の顧問となり、両社の経理事務が、代表者の独断で容易に脱税を行われることのないよう改善されつつあること、被告人酒井に同種の前科・前歴はなく、当公判廷においても本件犯行を反省して今後二度と再犯に至らない旨誓つていることなど、被告人酒井及び各被告会社に有利な諸事情も認められ、以上を総合考慮して、主文のとおり量定した次第である。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鈴木英夫 裁判官 飯渕進 裁判官 佐々木直人)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例